積分のあれこれ

はじめに

この記事は U-TOKYO AP Advent Calendar 20日目の記事です.本日12月20日は私の誕生日ということもあって,自分の好きな積分についての記事を投稿しようと思います. この記事は未完成です.記事の続きは卒論提出後に書く予定です.

記法およびお約束

集合 $S$ のべき集合を $2^{S}$ と書きます.
集合 $S$ の濃度を $\ \mathrm{card}\ S$ または $\ \#\ S $で表します.
関数 $\ f \ \colon \ X \rightarrow Y$ について, $B \subset Y $ の逆像$\{ x \in X\ \colon\ f(x) \in B\}$ を $\ f^{-1}(B) $ と表します.
集合 $ S $ の部分集合 $ A $について,その特性関数を $\ 1_A\ $と表します. 拡大実数$\ \mathbb{R} \cup \{ \pm \infty \}$ を $\ \overline{\mathbb{R}}$ と書きます.
$ a $を任意の実数として, $ a + \infty = \infty $,$ a + (-\infty) = -\infty $ , $ 0 \times \infty = 0 $と定めます.
$ a $が正の実数のとき,$ a \times (\pm \infty) = \pm \infty $,$ a $が負の実数のとき,$ a \times (\pm \infty) = \mp \infty $(複合同順)で定める.

目次

  1. 積分以前
  2. ルベーグ積分の定義
  3. 積分の例
  4. 数値積分の具体例(未完成)
  5. 確率的手法(未完成)

1. 積分以前

この章では,積分を定義する前の準備をしていきます.準備はなるべく最低限で済ませ,証明も省略して気持ちだけの話をしていきます(ただ自分の趣味として定義だけはしっかりしていきます).

1. 1. 積分とは

皆さんは積分と聞くとどのようなものを想像しますか.
積分と聞くと次のようなものを想像したのではないでしょうか.

関数 $\ f\ \colon \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}$と$\ a,\ b,\ x_0,\ \ldots , x_n\in \mathbb{R}$で$\ a = x_0 \leq x_1 \leq \cdots \leq x_n = b$となるものに対して, $$ S_n = \sum_{i=1}^n f(x_i) (x_i - x_{i-1}) $$
とします.このような $\ S_n $ に対して,$\mathrm{max}_{i}\ (x_i - x_{i-1}) \rightarrow 0 $ となるように $ n \rightarrow \infty $ としたものを(実際に存在するかは別として)関数 $\ f$ を区間$\ [a,\ b]\$で積分した値とする.

このように積分を定めようとする気持ちは何なのでしょうか.

私の中ではこのように積分を定める気持ちとして,積分とは重み付きの足し算みたいなものだというのがあります.各区間の重みがその区間の"長さ"である $\ x_i - x_{i-1}$として与えられ,区間の代表値の値にその区間の重みをかけて足し合わせる.そうして計算されるものが積分である,という気持ちで積分は定義されようとしている.このように私は捉えています.

1. 2. 可測集合と測度

前の節で,積分というものの気持ちは"重み"付きの足し算だと言いました.
では,この"重み"とはどのようなものなのでしょうか.

数学ではこの"重み"を適切に定義したものとして測度というものがあります.この節では,測度について話していきたいと思います.
測度とは集合の重みのようなもので,長さや面積,体積を一般化したものとなっています.集合について測度を適切に定めると,それを用いることで積分が定義できるようになります.任意の集合に対して長さや面積,体積のように意味のある測度を定義できるととても嬉しい感じがします.
しかし,現実にはそのようなことはできません.そこで"重さ"を測れる集合というものを先に定義していきます.

定義1. 2. 1.(完全加法族,可測空間)

集合 $\ S $ の部分集合の族 $ \ \mathscr{S}$ で以下の三つの条件を満たすものを完全加法族という. 集合 $\ S $ と完全加法族 $\ \mathscr{S}$ の組 $\ (S,\ \mathscr{S})$ を可測空間といい,$\ \mathscr{S}$の元を可測集合という.

  1. $\ S \in \mathscr{S} $
  2. $\ A \in \mathscr{S} $ ならば $S \setminus A \in \mathscr{S}$
  3. 任意の$\ i \in \mathbb{N}$について$\ A_i \in \mathscr{S}$ ならば $\ \cup_{i\in \mathbb{N} } A_i \in \mathscr{S}$

定義の気持ちとしては,最低限全体と空集合の重さは測れて,重さが測れるもの同士を合わせたり,引いたりしたものもやはり重さが測れるであろう,というのがあります.
注意点としては上の定義から空集合が完全加法族に含まれていること,完全加法族が可算個の集合の共通部分をとる演算について閉じていることがあります.証明は簡単なので省略します.また,完全加法族が何であるか明らかなときは省略して書かれることが多いです. べき集合 $ 2^{S} $ も完全加法族の定義を満たしていますが,次に定義する測度というものをユークリッド空間$\ \mathbb{R}^n$に体積の拡張として定めようとすると,任意の部分集合については定義できないということがわかります.*1

完全加法族の中で重要なものとして,ボレル集合族 $\ \mathscr{B}$ というものがあります.これは一般には位相空間に対して定義されますが,今回は$\ \mathbb{R}$上の ボレル集合族のみを考えます.

定義 1. 2. 2. (ボレル集合族)

$\mathbb{R}$ 上のボレル集合族 $\ \mathscr{B}$ とは,$\ \{ (a,\ b]\ \colon\ a,\ b \in \mathbb{R} \}$ を含む最小の完全加法族である. $\overline{\mathbb{R}}$ 上のボレル集合族 $\ \overline{\mathscr{B}}$ とは,$\ \{ (a,\ b]\ \colon\ a,\ b \in \overline{\mathbb{R}} \}$ を含む最小の完全加法族である.

定義について補足として,最小の完全加法族が存在することは一般に示さないといけないことですが,これは完全加法族の共通部分が完全加法族となることからすぐに従います. ボレル集合族は位相空間について定義され,開集合を含む最小の完全加法族のことを指します.

定義1. 2. 3.(測度,測度空間)

$\mathscr{S}$を集合 $\ S $ 上の完全加法族とする. 関数 $\ \mu\ \colon \mathscr{S} \rightarrow [0,\ \infty]$で以下の条件を満たすものを $\ S$上の測度といい,三つ組$\ (S,\ \mathscr{S},\ \mu)$ を測度空間という.

  1. $\ \mu (\emptyset) = 0$.
  2. $A_i \in \mathscr{S}\ (\ i \in \mathbb{N}\ )$が互いに disjoint,
    つまり任意の $\ i,\ j \in \mathbb{N}$について$\ i\neq j $ ならば $\ A_i \cap A_j = \emptyset$ ならば $$ \mu (\cup_{i \in \mathbb{N}} A_i) = \sum_{i \in \mathbb{N}} \mu (A_i ) . $$

気持ちとしては,空集合は重さが0で,集合同士に重なりがなければそれらの和集合の重さは集合それぞれの重さの和となる,という感じです.
測度の例としては $\ \mathbb{R}^n$のルベーグ測度というものがあります.これは普段考えている体積に対応するもので,詳しくは述べませんがルベーグ可測集合について定義されています.
他の例については後ほど触れていきます.

1. 3. 可測関数

測度のことは少し忘れて,可測空間の間の性質の良い写像というのを定義していきます.ここでいう性質の良さは位相空間における連続写像のようなもので,可測集合の逆像が再び可測集合になるようなものを指します.

定義 1. 3. 1(可測関数)

$(S_1,\ \mathscr{S}_1),\ (S_2,\ \mathscr{S}_2)$を可測空間とする.
関数 $\ f\ \colon\ S_1 \rightarrow S_2 $ で 任意の$ B \in \mathscr{S}_2 $ に対して,$ f^{-1}(B) \in \mathscr{S}_1 $ となるものを$\ (\mathscr{S}_1,\ \mathscr{S}_2) -$可測関数という.

$\ \mathscr{S}_1,\ \mathscr{S}_2 $が明らかなときは省略して,単に可測関数と呼びます.

2. ルベーグ積分の定義

この章では積分を実際に定義していきます.前の章と同じように,定義はしっかり,証明はつけずお気持ちを添えていく,というスタイルで進めていきます.

2. 1. 簡”単”な関数について

この節では簡”単”な関数,いわゆる単関数について積分を定義していきます.まずは単関数の定義を行います.

定義 2. 1. 1. (単関数)

$(S, \mathscr{S}, \mu )$ を測度空間, $\ \mathscr{B}$ を $\mathbb{R}$ 上のボレル集合族とする. $(\mathscr{S}, \mathscr{B})-$可測関数 $\ f\ \colon \ S \rightarrow \mathbb{R}$で $\ \mathrm{Image} f $ の濃度が有限となるものを可測単関数という。

可測単関数 $\ f$ は有限個の互いに disjoint な可測集合 $\ \{ A_{i} \}$ と互いに異なる実数 $\ \{ a_{i} \}$ を用いて $\ f = \sum_{i} a_{i} 1_{A_{i}}$ と一意的に書けます.証明は簡単なので興味のある方は各自で確認してみてください.
可測単関数に対しては積分は簡単に定義できます.

定義 2. 1. 2. (非負値可測単関数の積分

$(S, \mathscr{S}, \mu )$ を測度空間,$\ f = \sum_{i} a_{i} 1_{A_{i}}:$を$\ S$上の非負値可測単関数とする. $\ f$の$\ S$上での積分を $$ \int_{S} f \mathrm{d}\mu = \sum_{i} a_{i}\mu (A_{i})$$ で定める.

上の定義が well-defined であることは簡単に確認できます.上の定義の気持ちはまさに重み付き足し算で,重みは各値をとる集合の測度に対応します.
積分値は $\ \infty$になることもあります.積分範囲が明らかなときは省略することもあります. 非負値可測関数について積分を定義するときは,非負値可測単関数を用いて 可測関数を近似することによって定めます. 以下非負値可測単関数の集合を $\mathbb{M}_0$と表します.

定義 2. 1. 3(非負値可測関数の積分

$(S, \mathscr{S}, \mu )$ を測度空間,$\ f\ \colon\ S \rightarrow \overline{\mathbb{R}}$を非負値 $\ (\mathscr{S},\ \overline{\mathscr{B}})$- 可測関数とする. $\ f$の$\ S$上での積分を $$ \int_{S} f \mathrm{d}\mu = \mathrm{sup} \{ \int_{S} g \mathrm{d}\mu\ \colon\ g \in \mathbb{M}_0 ,\ S\ \text{上}\ g \leq f \}$$ で定める.

上の定義が well-defined か気になる人は [1] を参照してください.
上の定義がうまくいくのは非負値ボレル可測な関数を非負値可測単関数によって下から近似していくことができる,という定理があるからです. 最後に一般の可測関数について積分を定めます. 一般の可測関数については積分ができないケースもあるので,まずは積分ができる関数を定めます.

定義 2. 1. 4.(積分可能,可積分

$(S, \mathscr{S}, \mu )$ を測度空間,$\ f\ \colon\ S \rightarrow \overline{\mathbb{R}}$を$\ (\mathscr{S},\ \overline{\mathscr{B}})$- 可測関数とする. $\ f_{+}\ \colon \ S \rightarrow \overline{\mathbb{R}}$を $\ f_{+}(x) = \mathrm{sup} {f(x),\ 0} $で,$\ f_{-}\ \colon \ S \rightarrow \overline{\mathbb{R}}$を $\ f_{-}(x) = \mathrm{sup} {-f(x),\ 0} $で定める.
と,$\ f_{+},\ f_{-} $はともに非負値可測関数となる.
$f$が積分可能であるとは, $\int f_{+} \mathrm{d}\mu$か$\ \int f_{-} \mathrm{d}\mu$のいずれか一方が有限となることである.
$f$が積分であるとは, $\int f_{+} \mathrm{d}\mu$か$\ \int f_{-} \mathrm{d}\mu$がともに有限となることである.

上の定義は,$-\infty + \infty $が定義できないことから必要となります. 一般の可測関数の定義は次のようになります.

定義 2. 1. 2. (可測単関数の積分

$(S, \mathscr{S}, \mu )$ を測度空間,$\ f\ \colon\ S \rightarrow \overline{\mathbb{R}}$を$\ (\mathscr{S},\ \overline{\mathscr{B}})$- 可測関数とする. $\ f$の$\ S$上での積分を $$ \int_{S} f \mathrm{d} \mu = \int_{S} f_{+} \mathrm{d} \mu - \int_{S} f_{-} \mathrm{d} \mu $$ で定める.
$ A \in \mathscr{S} $として,$A$上での$\ f$の積分を $$ \int_{A} f \mathrm{d} \mu = \int_{S} f1_{A} \mathrm{d} \mu$$ で定める.

複素数値関数についても実部と虚部に分けて定めることで定義できますが,今回は省略します.

3. 積分の例

私が今回の記事を書いた理由はほぼこの章を書きたかったからです.いろいろなものが(ルベーグ積分となっていることを確認したい,あれもこれも積分だ,と主張していくというのがこの章の目的です.

例 3. 1. (よく考える積分

$\mathbb{R}$にルベーグ測度が定まっているとします.ルベーグ測度を$\ \mu$と書きます.$f \ \colon \ \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}$を連続関数,$a,\ b \in \mathbb{R}$とします.このとき$\ f$は可測関数で,$(a,\ b)$上でのfの積分 $\int_{(a,\ b)}f\mathrm{d}\mu$はリーマン積分の値と一致します.

例 3. 2. (関数評価)

$x_0 \in \mathbb{R},\ A \in 2^{\mathbb{R}}$として,可測空間$\ (\mathbb{R},\ 2^{\mathbb{R}})$に次の測度$\ \mu$を定義します. $$x_0 \in A \text{のとき} \mu(A) = 1,\ x_0 \notin A \text{のとき} \mu(A) = 0.$$ $ f\ \colon\ \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}$とします. このとき, $$\int f\ \mathrm{d} \mu = f(x_0)$$ となる.

例 3. 3. (区分求積法)

積分値を区分求積法によって近似することを考えます。 関数$\ f\ \colon \ [a, \ b] \rightarrow \mathbb{R}$の$\ [a,\ b]\ $上での積分を $$ \frac{b-a}{N}\sum_{k=0}^{N-1} f(a + k\frac{b-a}{N})$$ で近似するものです. $$ B = \{a ,\ a + \frac{b-a}{N},\ a + 2\frac{b-a}{N},\ \ldots\ , a + (N-1)\frac{b-a}{N}\} $$ として,可測空間$\ ([a, \ b],\ 2^{[a,\ b]})\ $上での測度$\ \mu_{N}$を$\ A\in 2^{[a, \ b]}$を $$ \mu_{N}(A) = \frac{b-a}{N} \# (A \cap B)$$ で定めると,区分求積法の計算結果は $$ \int_{[a,\ b]} f\ \mathrm{d} \mu_{N}$$ となる.

例 3. 4. (台形則)

数値積分の手法のひとつとして,台形則というものがあります. 台形則とは,関数 $\ f\ \colon \ [a, \ b] \rightarrow \mathbb{R}$の$\ [a,\ b]\ $上での積分を $$ \frac{b-a}{N}\sum_{k=0}^{N-1} \frac{f(a + k\frac{b-a}{N}) + f(a + (k+1)\frac{b-a}{N})}{2}$$ で近似するものです. $$ B = \{a,\ b\},\ B' = {a + \frac{b-a}{N},\ a + 2\frac{b-a}{N},\ \ldots\ , a + (N-1)\frac{b-a}{N}} $$ として,可測空間$\ ([a, \ b],\ 2^{[a,\ b]})\ $上での測度$\ \mu_{N}$を$\ A\in 2^{[a, \ b]}$を $$ \mu_{N}(A) = \frac{b-a}{2N}\# (A \cap B) + \frac{b-a}{N}\# (A \cap B') $$ で定めると,台形則の計算結果は $$ \int_{[a,\ b]} f\ \mathrm{d} \mu_{N}$$ となる.

区分求積や台形則に限らず,重み付きの足し算は各点で適切に測度を定めることですべてルベーグ積分の形になります. 種々の数値積分の公式は簡単なものを除くとルベーグ積分としてはみなせない場合が多く,より一般には関数解析の文脈で見ていくことになります.

4. 数値積分の例

この章では数値積分を実際に実装してその計算結果を見ていくつもりでしたが,まだ未完成です.

5. 確率的手法

この章ではモンテカルロ法の誤差の収束についての理論的な話を書くつもりでしたが,未完成です.

おわりに

なにか間違えがありましたら連絡ください.
明日21日目は計数のガチプロこと tener さんが面白い記事を書いてくれるそうなので皆さん期待してください!

*1:ZFCの下での話です.